最愛の推し、天音かなたさんが卒業した。
今、私の心は名前のつかない感情でぐちゃぐちゃになっている。これを整理するには、言葉にするしかないと思った。二度と味わいたくないこの痛みを、あえて文字に起こして残しておく。
私にとって彼女は、唯一の救いだったと思う。
私が小学生だった頃の話。私は中学受験をした。塾は幼い私を押し潰す呪いだったと思う。周囲は当たり前のように正解を重ねていく中、私だけが取り残されていく。成績表を見るたびに視界が暗くなり、優秀な周囲の友人たちとの間には、目に見えない、けれど決して越えられない分厚い壁がそびえ立っていた。
教室の空気すら息苦しい絶望の日々。そんな私に呼吸をさせてくれたのが、天音かなただった。
彼女の声を聴いている時だけは、劣等感に苛まれる自分を忘れることができた。彼女のひたむきな姿が、私の折れかけた心に強く残った。
「かなたんがいるから、明日も頑張れる」
そう思えたからこそ、私はあの地獄のような孤独を乗り越え、合格を勝ち取ることができた。彼女がいなければ、今の私は間違いなく存在していないと断言できる。
それなのに。あんなにも救ってもらったのに。
「かなたんは、ずっとそこにいてくれる」。 そんな根拠のない「永遠」を、私はいつの間にか信じて疑わなくなっていた。だから2023年の夏、私は彼女から目を逸らした。学校の忙しさ、目の前の現実…そんな適当な言い訳を盾にして、恩人である彼女の手を、私の方から離してしまった。
それから一年半。「引退」の二文字が突きつけられたとき、私を襲ったのは後悔なんて言葉では軽すぎるほどの絶望だった。自分が犯した罪を、まざまざと見せつけられた気がした。
最後の四週間、私はそれまでの空白を埋めるように、彼女のことだけを考え、呼吸をするように彼女を見つめた。本当に、本当に楽しかった。あの受験の日々、彼女に支えられていた頃の温かい記憶が蘇り、涙が止まらなかった。けれど、その輝きが眩しいほど、私の影である後悔は色濃く焼き付いた。
結局、私は一番苦しい時に助けてもらった恩を忘れ、言い訳をして離れてしまった人間だ。彼女がいなくなった世界で、私はこの重たい罪を一生背負って生きていくのだろう。
ごめんなさい。そして、私を生かしてくれて、本当にありがとう。